EU、排出ゼロへ包括案
欧州連合(EU)の欧州委員会は14日、温暖化ガスの大幅削減に向けた包括案を公表した。ハイブリット車を含むガソリン車など内燃機関車の新車販売について2035年に事実上禁止する方針を打ち出した。環境規制の緩い国の輸入品に事実上の関税をかける国境炭素調整措置(CBAM)を23年にも暫定導入する計画だ。CBAMは第三国にEU並みの気候変動政策を要求するものだ。中国やロシアをはじめ、日米などにも対象になる可能性がある。EUは緩やかに導入を進めることで他国との対立を避けたい考えだが、貿易摩擦に繋がるリスクがある。「第三国の生産者が排出を減らすインセンティブになる」欧州委員会の担当者はこう強調する。EU域外の事業者がEUに製品を輸出するために排出減に向けて努力するというわけだ。実際、EU並みの気候変動対策をとっていれば制度の対象にならない。CBAMは国境炭素税とも呼ばれる。影響が大きそうなのがロシアや中国、トルコの企業だ。EUの輸入に占める割合を見ると、セメントではトルコが37%を占めるほか、肥料では36%をロシアが、鉄鋼ではトップ3に3カ国が名前を連ねる。厳しい環境規制で競争力の低下を懸念する欧州の鉄鋼やセメント業界などは制度の導入を支持する一方、中ロや日米などの域外国は懸念を示してきた。保護主義的な措置で、世界貿易機構の無差別原則などのルールに反しているのではないかといった理由だ。EU高官は6月、日本経済新聞の取材に「2050年に温暖化ガス排出の実質ゼロを宣言した先進国を念頭に置いた制度ではない」と述べた。だが、日米などの企業のすべての製品が対象外になるかは不透明な面が残る。日米などは全国的な排出量取引制度を持たないため、EUと同等の環境対策をしているというデータで示すことが難しい可能性がある。EUでは排出量取引に基づいて、二酸化炭素を出す権利の価格が日々公開される。データで示せなければ、制度の対象になるリスクが高まる。日本経済研究センターは欧米が国境炭素調整を導入した場合の日本の製造業への影響について、二酸化炭素1㌧あたり5,500円(50㌦)の場合でEU向けに年2.5億㌦、米英に年5.67億㌦を支払う可能性があると試算する。EU内にも貿易摩擦に繋がりかねないと不安視する声はある。とりわけ米国とはトランプ前政権時代には通商問題を巡って関係が冷え込んだ。