日本経済復活の「最後のチャンス」
政府が新たなエネルギー基本計画の策定に着手した。現行計画より10年先の2040年度の電源構成を24年度中にまとめる 。産業界からは、脱炭素の取り組みが早期に進まないと、投資を国内でなく海外に振り向けざるを得ないとの声が上がる。15日の有識者会議での議論から論点を探る。脱炭素は「日本経済復活の最後の大きなチャンスになる」。日本製鉄の橋本英二会長は15日の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で訴えた。同社をはじめ日本企業は脱炭素に向けた研究開発に取り組んでいるが、その成果を国内の設備投資につなげられるかどうかは、エネルギーの脱炭素が進むかどうかが「決定的な要素になる」と強調した。鉄鋼の脱炭素は高炉の電炉転換や、鉄鉱石の還元に石炭ではなく水素を使う水素製鉄が有力な手段だ。ただ、ここで使う電力や水素自体が温暖化ガス(GHG)を排出しては意味がない。グリーン電力やグリーン水素を適切なコスト水準で安定調達できるかどうかがカギを握る。投資判断に残された時間も少ない。30年までに電炉をたちあげるには「今年中に投資を決める必要がある」(橋本氏)ものの、グリーン電力を十分に確保できるかはなお見通せない。政策の後押しがなければ「投資は海外で実施して地球規模の脱炭素に貢献し、国内は生産縮小とならざるを得ない」と訴えた。
世界で脱炭素政策の導入競争
実際、グリーン電力の安定供給は産業集積の必須条件になりつつある。高村ゆかり東京大学未来ビジョン研究センター教授は「世界で脱炭素社会に対応した政策の導入競争がおきている」と指摘。産業構造の転換で出遅れないよう、政府の役割が重要だとした。現行のエネルギー基本計画は30年に再生可能エネルギーの比率を36〜38%にする方針だが、現状は22%にとどまっている。三井住友銀行の工藤禎子副頭取は「キャッシュフローの予見性が乏しいことが脱炭素電源(への新規投資)の足かせになっている」と指摘。中長期的な公的支援の方針を示すことなどを通じて予見性を高めるよう求めた。再生エネの大量導入に向けては風力と合わせ太陽光発電のさらなる拡大が必要だ。ただ、パネルの設置に適した土地は減っている。規制緩和などを通じ、建物一体型の普及や、空港などの公共施設への設置を進めるべきだとの指摘も出た。
増える電力需要、原発に「高い価値」
電力需要の増加にどう対応するかも論点の一つになりそうだ。省エネなどにより電力需要は減少傾向にあったが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展や人工知能(AI)の活用でデータセンター(DC)が増加。半導体工場など電力消費の多い設備も増え、今後は総需要の拡大が見込まれる。