脱炭素対応は必須の要件
オフィスビルがテナントを確保する上で、「環境改修」による価値向上という選択肢が注目されています。わが国はカーボンニュートラル達成のため、オフィスビルを含めた業務部門で、2030年時点の二酸化炭素(CO₂)排出量を13年度から51%削減する目標を掲げています。既存建物でも改修による削減目標が設定されています。先行する欧州連合(EU)は20年10月に「リノベーション・ウェーブ」という戦略を発表しました。建築部門はEUのエネルギー消費量の約40%を占める一方、エネルギー効率を高める改修は毎年1%程度です。このため50年のカーボンニュートラル実現に向け、既存の建物に対するエネルギー消費性能基準の段階的な導入や、改修を誘導する政策が進められています。日本でも、テナントがビルを選択する際、企業規模を問わず環境対応は重要な基準となりつつあります。日本政策投資銀行・価値総合研究所の調査ではテナントの16%が選択基準として「環境配慮性能」をあげました。また、環境配慮対応ビルの賃料負担許容度については、テナント企業の約40%が、5%以上の賃料上昇を許容すると回答しています。一方、地方では都市部よりテナントの要求水準を満たす環境対応ビルは少ないのが実情です。このため、テナント企業が地方拠点を縮小・閉鎖することも考えられます。しかし、環境対応ビルの経済性評価は定まっていません。環境対応でビル賃料が上昇(グリーンプレミアム)するかどうかも論争が続いています。海外では研究の蓄積も進んでおり、マーストリヒト大学(オランダ)のピート・アイヒホルツ氏らは、オフィス市場における環境対応ビルの経済性を実証的に明らかにしました。国内でもグリーンプレミアムの存在を確認する研究があり、おおむね5~10%の正の賃料プレミアムがあると推計されています。適正な賃料負担が期待できれば、供給サイドも利益率を下げること無く、環境対応ビルの新規供給や改修を実施できます。需給両面からオフィスビルの良質化が期待されます。