介入は価格調整ゆがめる
エネルギー価格の高騰は家計や産業を直撃し、いくつかの国では影響を緩和するための措置を取っている。例えば英国では消費者向け販売価格に上限を設け、スペインでは電力料金に課す付加価値税を引き下げた。欧州委員会も、低所得者に対する補助やエネルギー料金の支払い猶予、エネルギー供給停止の回避、現在など加盟国が採り得る短期的な手当の例を提示している。では原油価格はどうか。原油価格もコロナ後の景気回復に合わせて価格が上昇している。しかし、その程度は天然ガスや電力と比較すると小さい。13年度初を100とした指数をみると、足元では80を下回る水準にある。原油価格は08年夏のいわゆるリーマンショックのち直前に1バレル当たり140㌦超の最高値をつけた。その後急落したものの、12年から14年にかけて同100㌦前後の高値が続いた。日本でも石油の値上がりが報道されているが、実は現在の油価は過去に経験してきた高値よりも依然として低い水準にある。そしていま、石油価格の値上がりに対して対策が検討されている。日本は米国や中国、インド、韓国、英国と供に石油の国家備蓄放出を決めた。また日本では、ガソリン価格が一定の水準を超えた場合に、石油元売り会社に対して補助を行う検討がされていると報道されている。世界が一丸となって取り組む気候変動対策の視点からも、エネルギー価格の高騰に介入すべきでない。気候変動対策には様々な投資が求められるが、クリーン技術を普及するに際して割高なコストは大きな障壁になる。エネルギー価格の高騰は、省エネルギー投資や再エネ投資の投資回収年数を短縮する効果がある。省エネや再エネ利用によるエネルギー料金の削減効果が大きくなるためである。つまり、エネルギー価格の高騰は低・脱炭素技術普及の好機と捉えることができる。例えばガソリンの高騰が続けばより多くの人が燃費の良い自動車を選び、また鉄道など自動車よりもエネルギー効率の高い移動手段を選択するようになるだろう。あるいは電力料金の支払いを減らすことができる太陽光発電システムを設置する過程が増えるかもしれない。本質的には、省エネの強化や再エネによる自給など、エネルギー価格の高騰という外部環境の変化に影響されにくい構造を作り上げていくことをしなければならない。エネルギー価格の高騰を、より強靱なエネルギー受給構造へと作り替えていく契機とすることが期待される。