分断される環境投資
米インターコンチネンタル取引所(ICE)で、カリフォルニア州の排出枠を取引する商品(CCA)に23年から投資マネーが駆け込んでいる。電力会社や石油、ガス会社が出す温暖化ガスの量に応じ、排出枠の過不足をやり取りしている。そこにヘッジファンドなどが加わり始めた。市場関係者によると「少額だが日本の年金基金の資金も入っている」という。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータでは、投資マネーのロングポジションは1年前の約50倍。代表的なコモディティーである石油先物のロングポジションが1年前とほぼ横ばいなのと比べ、投資家の選好ぶりがうががえる。排出枠の相場も、カリフォルニア州では23年7月ごろから右肩上がりで推移。欧州の排出枠取引(EUA)の先物が1年で半値になったのとは対照的な動きになっている。とはいえ、こうした状況から米国で環境投資に関心が高まっていると考えるのは早計だ。最近はむしろ、環境投資に反対する声が強い。全米の州は、知事が民主党出身の州は総じて推進派、共和党出身の州は反対派と、ほぼ色分けされている。カリフォルニア州は環境対策に積極的で、排出枠取引も投資マネーを強く引きつけるが、州によっては全く逆の方向に進み始めた。分断を象徴するのが、1月に行われた共和党予備軍でトランプ氏が勝利した、米東部ニューハンプシャーだ。州の資金を運用する際、リターンを最大化することを重視し、故意にESG基準に基づく運用をした場合は罪に問うという法案が浮上した。知事が共和党出身の州ではこれまでも、公金運用に際し、ESG要因を重視する金融機関を運用委託先から除外した例はあるが、さらに一歩進めたと受け止められている。世界の投資家のESG投資は21年をピークにその後、大きく変質した。22年2月のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、石油や天然ガスの必要性が意識され,株式市場では石油株が風力、太陽光関連の上昇率を上回るようになった。21年に勢いづいた環境関連の投資商品も「ESG離れ」の機運のなかで強い逆風を受けた。発行する企業や政府があらかじめ環境関連の目標を設定し、金利が変動するサスティナビリティ連動債が代表例だ。仮に設定した目標が排出量なら、企業や政府は金利の負担増を避ける為、意欲的に削減に取り組むだろうと想定している。ところが、投資家からは調達した資金の使途が見えにくい、設定した金利が横並びのうえ低すぎる、といった声が出た。世界銀行は商品設計に「抜け穴」があると指摘した。発行額は23年に急減した。