企業、投資家向け可視化
ESGの取り組みが財務や株価に与える効果を数値で示す企業が増えてきた。日立製作所は投下資本利益率(ROIC)を約1ポイント押し上げたと分析した。ESG投資の普及から5年前後が経過し、明確な効果を問う投資家が増えている。日立は京都大学とESGの取り組みが企業の稼ぐ力を示すROICをどう高めるのかを推計した。同業他社のデータをもとに、ESGの取り組みをしなかった場合の「仮想の日立」のデータをつくり比較した。その結果、日立による温暖化ガスの排出量、産業廃棄物や水の使用量の削減といった取り組みは2017~20年度までの4年平均のROICを約1ポイント押し上げる効果があったという。ROIC上昇には、エネルギー管理システムを使ったコスト削減や、二酸化炭素削減を取引先に求める企業などとの取引拡大が寄与していると想定される。今後はESGの取り組みと財務項目ごとの因果関係を分析する。京都大学の砂川教授は「企業の経営判断を支える分析モデルを作りたい」と話す。ESGの取り組みは企業の持続的な成長を支えるとみなされている。企業統治に問題があれば不祥事が起きやすい。社会に支持されなければ不買の対象になり、長い目でみると売上高や利益を左右する「非財務情報」として重視され、投資家にわかりやすいよう数値で示す工夫が情報開示の新たな世界の潮流となっている。ESGと財務指標を紐付ける取り組みは海外企業が先行した。独ソフトウェア大手SAPは14年~18年にかけて従業員のエンゲージメント指数や二酸化炭素排出量など4つの指標が財務に与える影響を分析した。18年時点では従業員のエンゲージメント指数が1ポイント改善すると営業利益を5000万~6000万€(86億3,300万円)押し上げるとした。仏食品大手ダノンは20年に二酸化炭素排出量をコストとみなした場合の利益を公表した。二酸化炭素排出量1㌧あたりの費用を35€と仮定し、実際の利益からコストとして差し引いたところ、排出を考慮した利益は実際の半分程度だった。一般的な企業会計の利益とは異なるが、排出削減を進めてこの利益を増やし、投資家にアピールする。米主要企業では時価総額の90%が無形資産なのに対し、日本企業は32%で、非財務情報に基づく評価の割合が日本は低い。ESGが業績とどう結びつくかを説明することが求められている。投資家からは「企業収益に影響のある情報の開示がほしい」との要請が高まっている。
※私たちは脱炭素化とコストダウンを両立できる装置の提供及び開発を進めています。