移行債の伸びに期待高まる
5月12日、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」が成立した。脱炭素社会への転換を目指すグリーン・トランスフォーメーション(GX)の政策が本格的に動き出す。脱炭素の実現には新技術の開発や産業構造の転換が不可欠になる。そのために政府は今後10年間で官民あわせて150兆円を超えるGX投資を目指すと表明している。まさにサスティナブルファイナンスの出番ということだ。GX推進法は、150兆円の投資の呼び水になる20兆円規模の政府資金を調達するための「GX経済移行債」の発行や、二酸化炭素排出量に価格を付けて化石資源の消費量やCO₂排出量の削減を促すカーボンプライシングの導入が柱になっている。
移行債が急伸
GX推進法が制定される前から、政府はサスティナブルファイナンスの拡大を推進してきた。特に、脱炭素経済社会への移行のためのトランジション・ファイナンスの分野だ。2020年12月に国際資本市場協会(ICMA)が「クライメート・トランジション・ファイナンスハンドブック」を公表したのに対応して、金融庁、経済産業省、環境省は21年5月に「トランジション・ファイナンス基本指針」をまとめ、日本企業がトランジションを進めるためにボンドやローンで資金調達するための指針を示した。さらに、温暖化ガスの排出量が多い鉄鋼、化学、電力、ガス、石油、紙・パルプ、セメント、自動車の8分野で「トランジション・ファイナンス推進のための工程表を示した。政策の後押しもあり、国内のサスティナブルファイナンスの市場は順調に拡大している。日本証券業協会がまとめている「日本国内で公募されたSDGs債の発行額・発行件数の推移」によると、22年の発行額は前年比5割増の約4兆4,600億円に達した。金額面ではソーシャルボンドやグリーンボンドの比率が高い、伸び率ではトランジションボンド(移行債)が突出している。前年の200億円の21倍に当たる4,212億円になった。ESG経営の専門誌「日経ESG」が日経リサーチの協力で東京証券取引所プライム市場上場企業1837社を対象に実施した「ESG債調査」の結果を見ると、移行債の発行は23年も増えそうだ。「ESG債を発行したことがないが、現在、検討している」と回答した56社のうち25%に当たる14社が移行債を検討対象にしており、注目度は高まっている。GX推進法の制定によって、この勢いはさらに増すだろう。